「とりあえず大学」で、本当にいいのか? 資産形成から見た「高卒の強み」

18歳から働く強みと大学で学ぶ価値を、お金・時間・将来の仕事から考える

塾を経営している立場から、大学進学に異議を唱えることは矛盾した行為に思えますが、私も二人の子供を持つ親としての側面から、指導している塾生には幸せな将来を送って欲しいと本気で考えています。

お金だけが全てではありませんが、勉強には「経済的に自立する」という目的があることも事実です。この記事は、私が日々考えている学生たちの将来設計の、あくまで一つのモデルとして、一旦の結論を書き出したものです。

また、私は自分自身の人生をが大きく変わった出来事を3つあげるとしたら、

  • 大学受験
  • Web制作、プログラミングを独学で学ぶ
  • 株式投資

になるわけですが、世の中のことも少しずつわかってきた今の自分から、この大学受験をやらない選択をしていたらどんな人生設計が最適だっただろうとも考えた末に、ありえた一つの人生設計をここで書き記したものです。

※この記事は、進路やお金について、私が日々考えていることをまとめたものです。塾内で塾生に投資の話はしていません。それぞれのご本人・ご家庭の考えを尊重したうえで、将来を考える一つの視点としてお読みいただければと思います。

工業高校卒と国立大学卒を、お金・時間・将来設計から比較する

塾を経営し、子どもたちの進路を考える中で、気になっていることがあります。

「どの高校に入れるか」「どの大学なら合格できるか」は熱心に考えていても、その先の「どう働き、どう生活していくか」まで、十分に考えられているでしょうか。

普通科高校に進み、その延長で大学を目指す。周囲もそうしているし、親も勧めるから、自分もその道を進む。

一方で、勉強に苦手意識がある子は、「自分はよい大学に行けそうにないから、将来の生活も厳しくなるのだろう」と、自分の可能性まで小さく見積もってしまう。

私は、この両方を問い直したいと思っています。

偏差値は、今の受験学力の目安です。将来の暮らしにつけられた点数ではありません。

今回は、工業高校を卒業して18歳から働く道と、国立大学を卒業して22歳から働く道を、資産形成の面から比較します。そのうえで、これから求められる仕事の変化も踏まえ、中学生・高校生のうちから、どのように人生を設計すべきかについて考えていきたいと思います。

特に注目したいのは、若いうちに働き始め、その収入を計画的に資産へ変えていくことの強さです。

1.大学進学で使うのは、学費と「4年間」

大学の費用というと、まず授業料が思い浮かびます。しかし、地元を離れて進学するなら、家賃、食費、光熱費なども必要です。

日本学生支援機構の令和6年度学生生活調査によると、国立大学の学部生で、下宿・アパートなどに住む学生の学費と生活費の合計は、年間平均180万700円でした。単純に4年分にすると、約720万円です。

※ さらに塾の費用なども考えるとどうしても大学卒側は費用がかかりがち

これは、私立大学ではなく国立大学の数字です。私立大学(特に理系)ではこの金額は、さらに高まります。

そして、もう一つ使っているものがあります。18歳から22歳までの4年間です。

大学で学んでいる間に、高校を卒業して働き始めた同世代は、給与を受け取り、仕事を覚え、職歴を積んでいます。その収入から生活費を支払い、お金を残すこともできます。

ここで考えたいのが、そのお金をどうするかです。

早く働き始めても、収入をすべて使ってしまえば、金融資産は残りません。しかし、生活費を管理し、毎年一定額を投資に回せば、この4年間は「大学へ行かなかった時間」ではなく、技能と資産を先に育てる時間になります。

大学進学の価値を考えるなら、進学する場合の費用だけでなく、別の道を選んだ場合に何を積み上げられるかも、比較に入れる必要があるのです。

2.18歳から、技能と金融資産を同時に育てる

私が一つの選択肢として考えているのは、こんな人生設計です。

工業高校で仕事につながる基礎を学び、18歳で就職する。実家から通える職場で働き、仕事を覚えながら資格や技能を身につけ、給与の一部を投資する。

仕事を通じて、今後も収入を得るための力を育てる。同時に、働いて得たお金の一部を、将来に残る資産へ変えていく。

この二つを並行して進めるわけです。

では、実際にどれくらい積み立てられるでしょうか。

厚生労働省の2025年調査では、高校を卒業した新規学卒者の賃金は、男女計で月20万7,300円でした。

ここでは家計の例として、毎月の手取り17万円、年間の手取り賞与26万円、合計230万円を置いてみます。

年間の家計モデル 金額
手取り収入 230万円
実家に入れるお金 36万円
車の維持費・購入や買い替え用の積立 42万円
通信費・服・趣味・交際費など 40万円
現金の予備費 12万円
投資に回せるお金 100万円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

地方での生活を考え、車の費用も含めました。趣味や交際費をゼロにした計算でもありません。

この家計なら、月々とボーナスを組み合わせて、年間100万円を投資する目標が見えてきます。

最初から100万円が難しければ、50万円から始める。車の初期費用や予備資金を整え、昇給に合わせて80万円、100万円へ増やしていく。そういう進め方でもよいと思います。

ここで重視したいのは、急騰する株を見抜くことより、働いて得たお金を、将来に残る形へ変える習慣です。

3.4年間早く始めると、どれだけ違うのか

まずは、両者の年間積立額を同じにして、「4年間早く始めること」の効果を見ます。

注意しておきたいのが、大卒側には、その後の給与が高卒者に比べ高くなる平均的な傾向があります。その収入増を投資に回せれば、早く始めた側との差を縮めたり、逆転したりする道があります。

以下の表では、大卒側のメリットをいったん入れず、始める時期の違いを比べます。大学で稼ぐ力を高める強みについては、後ほど詳しく考えます。

高卒側は18〜29歳の12年間、毎年100万円を投資します。大卒側は在学中の積立をゼロとし、22〜29歳の8年間、毎年100万円を投資します。

両者とも金融知識があり、同じ運用をする設定です。30歳以降は、どちらも追加投資をせず、それまでに作った資産を運用し続けます。

年率6%で計算すると、次のようになります。

年齢 高卒側:
18歳から年間100万円
大卒側:
22歳から年間100万円
30歳 約1,687万円 約990万円
40歳 約3,021万円 約1,772万円
50歳 約5,410万円 約3,174万円
60歳 約9,689万円 約5,685万円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

※運用額は、冒頭の条件による試算。以下の運用比較も同様です。

積み立てた元本は、高卒側が1,200万円、大卒側が800万円です。

元本の差は400万円。ところが、この試算では、60歳時点の差は約4,000万円にまで広がります。最初の400万円の差が、約10倍の資産差になるのです。

高卒側が、特別な銘柄を当てたわけでも、大卒側より高い利回りを出したわけでもありません。18〜21歳の4年間に、毎年100万円ずつ先に積み立てた。そのお金に、長く育つ時間があった。この違いが、将来の約4,000万円の差につながっています。

早く働いてお金を残す価値は、4年間で貯めた400万円だけでは測れないのです。

年間50万円からでも、土台は作れる

年間100万円が難しい場合も見てみましょう。18〜29歳の12年間に積み立て、その後は運用のみという条件は同じです。

年間の積立額 30歳時点 60歳時点
50万円 約843万円 約4,845万円
80万円 約1,350万円 約7,751万円
100万円 約1,687万円 約9,689万円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

年50万円は、月換算で約4万2,000円です。

注目してほしいのは、60歳時点の大きな金額だけではありません。30歳の時点で、すでに数百万円から1,000万円を超える運用資産ができていることです。

その後、子育てや住居費などのために積立額を減らしても、先に作った資産を運用し続ける選択ができます。

若いうちの資産形成には、将来の残高を増やすだけでなく、その後の積立負担を軽くする意味もあります。

18〜29歳は、体力と時間を資産に変えられる「最強の準備期間」

私が特に大切だと考えているのが、18歳から20代の終わりまでの使い方です。

この時期には、働いてお金を作る、仕事を覚える、資格の勉強をする、合わなければ別の道へ挑戦する、といった行動に、若さのエネルギーを使えます。

私は、この時期を、将来の生活を作るための「最強の準備期間」だと思っています。

30代、40代になってから、働く量を増やし、仕事の後に勉強し、生活を一から組み直そうとすれば、体力的にもかなり厳しい場面が出てくるでしょう。仕事や家庭で担うものが増えれば、自分の判断だけで動ける時間も限られます。

将来も今と同じ勢いで動けると考えて、準備を先延ばしにするべきではありません。

しかも、若いうちに作ったお金には、長く運用できる時間が残っています。

若いうちは、体力を使って資金を作れる。その資金には、長く育つ時間がある。この二つを同時に使えることが強いのです。

出発点は、松屋のアルバイトでも構いません(私も起業当初はお金がなく、新聞配達のバイトなどもやっていました)

仮に、働きながら家計を整え、18〜29歳の12年間に毎年50万円を投資へ回せるなら、先ほどの「年50万円」の計算がそのまま当てはまります。同じ金額を、同じ時期に、同じ商品へ投資するなら、会社の名前や雇用形態によって計算結果が変わることはありません。

働いて最初の資金を作る。その間に、仕事の経験や資格を増やし、よりよい働き方へ移っていく。収入が増えたら、生活の満足度を上げながら、積立額も増やす。

最初から立派な肩書きがなくても、その後の動き方で生活の土台を作っていく道はあります。

大切なのは、若い体力を、その日の収入と消費だけで終わらせないことです。健康を守りながら働き、技能、職歴、資格、金融資産という形で、30代、40代の自分に残す。

若いときに頑張る意味は、一生頑張り続けるためではなく、年齢を重ねた自分の負担を軽くするためでもあります。

この若さの強みは、大学で専門的な学習や研究に打ち込むことにも使えます。早く働く場合も、大学へ進む場合も、若い時期を何に変えるかが重要なのです。

4.年率6%は現実的な利回りか

ここまでを読んで、「毎年6%で増えることにしているから、そんなに大きな金額になるのでは」と思った方もいるでしょう。

そこで、この6%という前提についても、実際のデータを見ておきます。

今回想定しているのは、特定の会社の株を当てるような運用ではなく、いわゆるオルカンのような全世界株への分散投資です。オルカン自体は2018年に設定された商品なので、長期の実績は、その連動先である全世界株の指数「MSCI ACWI」で確認します。

過去30年間では、100万円が約1,660万円に

FOLIOがBloombergのデータを使って集計した資料によると、1995年末から2025年末までの30年間で、全世界株は配当込み・円建てで約16.6倍になっています。100万円が約1,660万円になった計算です。これを複利の年率に直すと、約9.8%になります。

今回の6%は、その期間の実績より低く置いた数字です。

年率6%なら、100万円は30年間で約574万円になります。過去の実績どおり約1,660万円になる計算を採用しているのではなく、利回りを下げて比較しているわけです。

直近10年間は、毎年どれくらい増えていたのか

もう少し具体的に、2016〜2025年の10年間を、1年ずつ見てみましょう。

次の表は、全世界株の指数「MSCI ACWI」の、配当を再投資した円建ての年間リターンです。あわせて、2015年末の100万円が、追加投資をせずに同じ値動きをした場合の金額も示します。

その年のリターン 最初の100万円の年末時点の金額
2016年 +5.18% 約105万円
2017年 +20.37% 約127万円
2018年 −11.30% 約112万円
2019年 +26.09% 約142万円
2020年 +10.99% 約157万円
2021年 +32.77% 約209万円
2022年 −6.00% 約196万円
2023年 +31.22% 約257万円
2024年 +31.56% 約339万円
2025年 +22.55% 約415万円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

この10年間では、100万円が約415万円。複利の年率に直すと、約15.3%です。毎年お金を追加した結果ではなく、最初の100万円を運用し続けた場合の計算です。

一方、今回の前提である年率6%なら、100万円は10年間で約179万円になります。

少なくとも、直近10年や過去30年の実績をそのまま将来へ延ばし、見栄えのよい金額を出しているわけではありません。今回の試算では、それらの実績より低い利回りを使っています。

ただし、表を見れば分かるとおり、毎年順調に増えていたわけではありません。2018年や2022年には下がっています。年率6%というのは、毎年6%ずつ確実に増えるという意味ではなく、長期の資産形成を比較するために置いた前提です。

将来の予測と比べても、6%は大きく離れた数字ではない

過去だけでなく、将来の見通しも見てみます。

J.P. Morganの2026年版の長期予測では、今後10〜15年間の世界株式の期待リターンは、ドル建てで年率7%とされています。

円建ての運用結果には為替も影響するため、この7%を、そのまま日本の投資家が得られる利回りと考えることはできません。また、過去に高いリターンがあったからといって、将来も同じように増える保証はなく、元本割れの可能性もあります。

それでも私は、全世界株への長期投資を比較する前提として、年率6%には、実績や金融機関の予測に照らした根拠があると考えています。

「将来も必ず6%で増える」と言いたいのではありません。過去のデータや金融機関の長期予想から出される、あくまで根拠のある利回りであるということです。

安全性の高い米国債でも、年4.8%近い利回りがある

年率6%という数字を考えるうえで、もう一つ知っておいてほしいことがあります。

2026年9月4日時点で、米国10年国債の指標利回りは、ドル建て・税引前で4.78%です。およそ年4.8%という水準です。

「国債」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、仕組みはシンプルです。米国政府にお金を貸し、その見返りに利息を受け取る。10年国債なら、決められた利息を受け取り、満期には決められた元金がドルで返ってきます。

注目したいのは、株式のように企業の成長や値上がりを当てにいかなくても、安全性の高い米国債に、この水準の利回りがついていることです。

なぜ、米国債は安全性が高いのか

返済する相手が、一つの企業ではなく、米国政府だからです。例えば、任天堂が潰れる可能性と、アメリカという国が潰れる可能性どっちが高いかと言えば任天堂なわけです。国には大きな信頼があります。

また、株式には、「10年後に、購入したときのお金を返します」という約束はありません。一方、国債には、満期に決められた元金を返す約束があります。つまり、株式よりも受け取るお金の見通しを立てやすい運用なのです。

では、100万円分を運用すると、どうなるのでしょうか。

説明用に、年4.8%の利息がつく10年債を、満期に返ってくる元金と同じ価格で100万円分買う例を考えます。為替は変わらず、税金・手数料を除き、受け取った利息は再投資しない条件です。

内容 説明用モデルの金額
最初に投資するお金 100万円
1年間に受け取る利息 約4万8,000円
10年間で受け取る利息の合計 約48万円
10年後に返ってくる元金 100万円
元金と受取利息の合計 約148万円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

つまり、100万円分の元金を貸している間に、合計約48万円の利息を受け取り、最後に元金100万円が返ってくるということです。

特別な成長企業を見つけたわけでも、株価が急騰するタイミングを当てたわけでもありません。米国政府にお金を貸すという運用でも、この程度の収益を考えられる環境があるのです。

※ 一応、為替リスクがあるのですが今回は深入りしません

預金に置いているだけでは、大きく増えにくい

一方、日本の普通預金では、どれくらい増えるのでしょうか。

例えば、三菱UFJ銀行は、2026年8月3日に円普通預金の金利を年0.4%へ引き上げています。この金利で100万円を預けた場合、受け取る利息は税引前で年間約4,000円です。仮に同じ金利が10年間続き、利息を再投資しないなら、利息の合計は約4万円になります。

先ほどの米国債の説明用モデルでは、10年間の利息が約48万円。普通預金の例では、約4万円です。

もちろん、普通預金には、円で使うお金をすぐに引き出せるという大切な役割があります。生活費や急な出費に備えるお金まで、投資へ回すべきだとは思いません。

ただ、「いつでも使えるように置いておくお金」と、「長い時間をかけて育てるお金」は、分けて考えてよいのではないでしょうか。

日本の普通預金の金利だけを見ていると、年6%という数字は、途方もなく高く感じられるかもしれません。しかし、お金の運用先は、日本の普通預金だけではありません。

年6%は、「必ず得られる数字」ではなく、「根拠のある現実的な数字」

ここで、今回の年率6%という前提に戻ります。

返済の確実性が高い米国債にも、現在はドル建てで年4.8%近い利回りがあります。一方、株式は元金や収益が保証されない分、一般に債券より高い長期リターンを期待して保有されるものです。

安全性の高い国債でも年4.8%近い運用が考えられる環境で、より値動きの大きい株式に、長期で年6%のリターンを想定する。その数字自体が、過去の年率リターンから考えても十分現実的です。

もちろん、「米国債が4.8%だから、全世界株なら必ず6%以上になる」という意味ではありません。ドル建てと円建ての違いもあり、国債の利回りだけで株式の将来の成績を決めることはできません。

それでも、前述した全世界株の実績や、J.P. Morganが示す世界株式の年率7%という長期予測と合わせて見れば、6%を比較用の前提に置くことには、現実的な根拠があると思います。

「年6%なんて、投資の才能がある人だけの話だ」と考える必要はありません。大切なのは、預金と投資の違いを知り、それぞれの役割とリスクを理解したうえで、お金の置き方を考えることです。

5.進学用の720万円も運用に回したら

次に、大学進学の資金の使い方まで含めて考えます。ここは特に親の側も意識すべきことかと思います。

18歳の時点で、家族が大学進学用に720万円を用意していたとします。

大学の家庭は、この720万円を4年間の学費・生活費に使う。

高校卒業後に働く場合は、大学進学をしない代わりに720万円を運用資産として残せると想定します。

ここからは、本人だけの資産ではなく、進学用資金を含めた合算の比較です。

この表でも、大学で身につけた知識や技能によって、卒業後の収入や投資額を増やす効果は入れていません。まずは、早い段階でまとまった資金を運用に回す力を見てみます。

給与からの積立は、高卒側が18〜29歳、大卒側が22〜29歳に年間100万円。30歳以降は双方とも追加投資をせず、年率6%で運用します。

年齢 高卒側:
給与からの積立+720万円を運用
大卒側:
給与からの積立のみ
30歳 約3,136万円 約990万円
40歳 約5,616万円 約1,772万円
50歳 約1億57万円 約3,174万円
60歳 約1億8,010万円 約5,685万円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

この差には、早く働き始める効果に加えて、720万円を金融資産として残す効果が入っています。

大学の学費・生活費に使うお金も、もともとは親が働いて蓄えてきた大切な資金です。進路選択は、そのまとまったお金を、子供の何に振り向けるかという選択でもあります。

今回の条件を経済面から言い換えると、大学進学は、

「720万円+4年間の労働時間」を投じる代わりに、「22歳以降の稼ぐ能力」をどれだけ高められるか。

という投資です。

18歳から働いて、資産と職歴を積む道もある。その機会を大学で学ぶ時間へ振り向けるわけです。

この視点で見ると、目的もなく大学へ進学することの経済的なハードルは、一般に思われているより高いと私は感じます。

「国立大学なら学費が安いから」「みんな大学へ行くから」で終わらせず、そのお金と4年間で、自分は何を得るのかまで考えたいところです。

6.大学進学の強みは、その後の「稼ぐ力」を高められること

ここまでの計算で見てきたのは、早く資産形成を始める強さです。

しかし、大学へ進む道には、別の強さがあります。専門性を身につけ、その後に稼げる金額を大きくすることです。

早く始めることも、毎年多く投資できることも、資産形成の力になります。

大学進学は、資産形成を4年間遅らせるだけの選択ではありません。その4年間を使って、卒業後に稼ぐ力を高めるための投資でもあるのです。

初任給だけでなく、30代・40代以降を見る

厚生労働省の2025年調査では、学歴別の月額賃金は次のようになっています。

年齢 高校卒 大学卒 月額の差
25〜29歳 25万1,700円 29万6,400円 4万4,700円
30〜34歳 27万6,200円 34万300円 6万4,100円
40〜44歳 30万9,000円 42万5,300円 11万6,300円
50〜54歳 33万5,100円 49万4,900円 15万9,800円
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

この平均像を見ると、大学進学の経済的な価値を、22歳の初任給だけで判断すべきではないことが分かります。30代、40代になったとき、どんな仕事を任され、どれくらいの収入を得られるかまで見る必要があります。

そして、収入が増えた分をすべて生活費に使わず、一部を投資に回していけば、大学で身につけた力は、その年の給与だけでなく、将来の金融資産にもつながります。

例えば、稼ぐ力を高めた結果、投資に回せる金額を年間50万円増やせたとします。その追加分を20年間、年率6%で積み立てると、約1,839万円になります。

これは、高卒側が積立をやめることで生まれる差ではありません。自分の収入を増やし、投資額を増やしたことによる上積みです。

専門性を高める。収入を増やす。その一部を投資に回す。そこで育った資産が、さらに将来の選択肢を増やす。

大学へ進む道では、この流れを作れることが大きな強みになります。

大学で得たいのは、担える仕事の幅

大学で身につけたい力は、例えば、技術の仕組みを理解し、設計や研究開発に生かす力です。実験やデータによって考えを確かめ、製品や仕組みの改善につなげる。

経済や経営を学ぶなら、財務や統計を使って事業を分析し、どこにお金や人を振り向けるかを考える。法律を学ぶなら、複雑な問題を整理し、根拠を持って判断や交渉を支える。

こうした力を育てるために、専門的な学習や研究へまとまった時間を使う。その先に、自分が担える仕事を増やしていく。私は、そこに大学へ進む意味があると思っています。

学問を深く理解することや、自分のものの見方を広げることにも価値があります。そのうえで、経済面から進学を考えるなら、学んだことを仕事と収入へどうつなげるかは、避けて通れない問いです。

高卒側は、早く働いて技能と金融資産を育てる。大卒側は、学びに時間とお金を使い、その後の稼ぐ力と金融資産を育てる。

どちらも、自分の力とお金を育てる道です。ただし、その強みを生かすための行動は違います。

7.いまの中高生が働く頃、どんな仕事が求められるのか

進路を選ぶとき、今の給与や就職先だけを見るのでは十分ではありません。

いま中学生・高校生の子が、30歳、40歳になったときに、どんな仕事が求められているかまで考えたいところです。

ここからは、公表されている推計や研究を材料に、私自身の見通しも交えながら考えてみます。

人が足りない仕事と、人が余る仕事が同時に生まれる

経済産業省の「2040年の就業構造推計・改訂版」では、次のような見通しが示されています。

分野 2040年に起こり得ること
事務職 仕事に必要な人数より、働く人が約437万人多くなる
AI・ロボットなどを活用する仕事 必要な人数に、約339万人足りない
生産・建設・サービスなどの現場の仕事 必要な人数に、約260万人足りない
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

いま15〜18歳の子は、2040年には29〜32歳です。遠い未来の話ではありません。

簡単に言えば、事務の仕事では人が余る一方、技術や現場の仕事では人が足りなくなる可能性があるということです。

日本全体で人手不足でも、自分が目指す仕事まで人手不足とは限りません。「人が足りない社会だから、就職は何とかなる」と考える前に、どの仕事で必要とされるのかを見る必要があります。

理系・技能系では、どんな分野に注目したいか

私が注目しているのは、新しい技術を作る仕事と、その技術を現実の社会で使えるようにする仕事です。

例えば、次のような分野です。

注目する分野 需要を考える理由 学び・仕事の例
電気・電子・半導体・電力設備 AIやデータセンターの拡大を、半導体や電力設備が支える。IEAもデータセンターの電力需要の大幅な増加を見込んでいる。 電気電子、材料、半導体製造、電力設備の設計・施工・保守
機械・制御・ロボット 自動化を進めるには、機械を作るだけでなく、現場に導入し、動かせる人が必要。AI・ロボット活用を担う人材の不足も見込まれている。 機械工学、制御、生産技術、設備保全、工場の自動化
情報・AI活用・サイバーセキュリティ システムを作るだけでなく、仕事に組み込み、安全に運用する力に注目したい。IPAも企業のセキュリティ人材の確保・育成を支援している。 情報工学、統計、システム設計、AIの業務導入、情報セキュリティ
土木・社会インフラの維持管理 橋、トンネル、水道などの老朽化への対応が必要。新しく造る仕事だけでなく、点検・補修・更新も重要になる。 土木、防災、構造設計、施工管理、点検・補修
医療・看護、とくに在宅・高齢者医療 在宅医療の需要は、多くの地域で今後も増える見通し。地域で生活する患者を支える役割に注目したい。 医学、看護、訪問診療・訪問看護、地域医療
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これは、給与の高さを順位づけした表ではありません。社会の需要と、自分が学ぶ内容とのつながりを考えるための候補です。

例えば、AIが広がる社会を想像すると、画面の中のソフトウェアに目が向きがちです。しかし、それを動かすには半導体が必要で、電気が必要で、設備も必要です。IEAの2026年の報告でも、電力設備や先端半導体の供給制約が課題として挙げられています。

私は、こうした「技術を支える側」の仕事にも、大きな可能性があると考えています。

大学で高度な設計や研究を学ぶ道もあれば、高専や工業高校から、実際の機械や設備を扱う技能を育てる道もあります。

「大学か、高卒就職か」の前に、「これから必要とされる、どの仕事を担うか」を考えたいのです。

そのうえで、就職先の給与、休日、安全性、教育体制を調べる。需要がある分野を選ぶことと、よい条件で働ける職場を選ぶことの、両方が必要です。

ただし、「情報系なら安心」でもない

理系の中でも、情報系を選べば、それだけで安心だとは考えていません。

米国では、ソフトウェア技術者を含む大規模な人員削減が実際に起きています。州への届出を確認した報道によると、2025年5月のMicrosoftの人員削減では、ワシントン州だけで817人のソフトウェア技術者が対象になりました。

また、スタンフォード大学の2026年8月改訂版の研究では、分析対象の給与データにおいて、22〜25歳のソフトウェア開発者の雇用人数は、2022年末から2026年半ばにかけて、およそ2割減っています。

AIだけが原因と確定したものではありません。しかし、技術者にも人員削減や厳しい雇用環境が現れていることは、見ておく必要があります。

他の仕事を効率化してきたITの世界でも、自分たちの仕事のあり方を見直す必要が生まれている。皮肉な変化だと思います。

だから、情報系を目指すなら、「プログラムが書ける人になる」で終わらせないことです。

何を作るべきかを考え、仕組みを設計し、安全に動くかを確かめ、現実の問題を解決する。そのための道具として、AIも使いこなす。

私は、その方向へ力を伸ばしていくことが重要になると見ています。

文系は、「どの分野で、何を担うか」まで考える

文系については、定型的な知的作業だけを自分の強みにすることが、難しくなっていくと私は見ています。

資料を集める、要約する、定型文を作る、決まった手順で情報を処理する。こうした仕事はAIによって効率化され、必要な時間や人数が減る可能性があります。事務職の人員が余るという経産省の推計も、その方向を考える材料になります。

ただ、「文系の仕事はなくなる」で終わらせるつもりはありません。技術が伸びる社会にも、その技術を顧客へ届け、事業として成立させる役割があります。

私なら、次のような力を目指します。

営業なら、専門的な商品やサービスを理解し、顧客の課題に合わせて提案できる力。話が上手いだけでなく、技術、費用、導入後の効果まで理解し、相手の事情に合わせて仕事をまとめる能力。

会計・金融なら、数字を作るだけでなく、数字を使って事業を判断できる力。資金繰り、設備投資、採算など、経営上の選択に関われるようになる能力。

法務なら、法律を調べるだけでなく、事業を理解して契約や交渉を支えられる力。法律の知識を、実際に仕事を進めるために使えるようになる能力。

文系の学びに、数字、IT、特定の産業への理解を組み合わせる。そうすれば、技術を開発する側とは別の立場から、成長する分野に関わる道も考えられます。

文系を選ぶなら、「どの大学へ行くか」に加えて、特に「どの分野で、何を担える人になるか」まで考えてほしいと思います。

8.「好きなこと」と「社会が求めること」の両方を見る

進路を考えるとき、自分の好きなことを大切にするのは当然です。ただ、私は塾生や保護者から、進路の相談を受けるとき「好きなことで選べばよい」というのは、少々無責任に感じてしまいます。

将来的に仕事を続けていくには、「自分が何をしたいか」と同時に、「世の中で何が求められているか」も見る必要があるからです。

私は、自分の関心や強みを持ちながらも、社会の変化に合わせて学び、できることを増やしていける人が、長い目で見て最も強いと考えています。

自分に合う仕事を探すだけでなく、社会から求められる仕事に敏感であること。その両方が、これからの進路選択には必要だと思います。

例えば、機械が好きなら、どんな機械や設備を扱える人が求められるのかを調べる。人と話すことが好きなら、その力をどんな商品やサービスの営業に生かせるのかを考える。社会の仕組みに興味があるなら、会計、法律、経営など、仕事につながる専門性を組み合わせる。

「好き」を出発点にして、社会に必要とされる自分を育てていくわけです。

少なくとも、3つのルートを同列に比較したい

私がいま、15〜18歳くらいの子の人生設計を考えるなら、「勉強を頑張る→大学へ行く→大企業へ入る」という一本の道だけでは考えません。

少なくとも、次の3ルートを同列に比較します。

ルート 学び・仕事・資産形成のつなげ方
A:大学で専門性を高める道 理工・医療など専門性の高い大学 → 高所得を目指せる専門職・技術職 → 投資
B:技能・技術を身につける道 高専・工業高校 → 希少性のある技能・技術職 → 資格取得・管理職・独立 → 投資
C:文系の学びを職能へつなげる道 有力大学文系 → 営業・金融・会計・法務・経営などの明確な職能 → 投資
※表が画面に収まらない場合は、左右にスクロールしてご覧ください。

これは順位ではありません。どの道にも、社会の需要と自分の強みを結びつける設計が必要です。高専、大学院、6年制の大学課程などは、卒業までの期間と費用を、それぞれの条件で考えます。

工業高校や高専を、大学へ進めない人のための次善策として見る必要はないと思います。何を学べるか、どこへ就職できるか、その後どんな仕事を担えるかまで含めて、積極的な選択肢として比較すればよいのです。

逆に、私が危ういと感じるのは、次のような流れです。

普通科高校

→ 特に目的なく大学へ進学

→ 4年間、専門性や経験をほとんど積み上げない

→ 大卒という肩書き以外の強みが乏しいまま、事務系の仕事に就く

→ 30歳になっても、仕事上の強みや金融資産がほとんど育っていない

問題は、普通科高校や文系というラベルではありません。

「この道を進んでいれば安心だ」と考え、何を積み上げるかを考えなくなることです。

社会が変わっても、昔の安心の基準だけを頼りにする。学校を出た後も、自分の力を更新しない。その人生設計のリスクは、これから大きくなると私は見ています。

9.先にある人生まで考えられる学生は強い

今回の比較で見たかったのは、「どちらの学歴が上か」ではなく、それぞれの進路をどう使えば、自分の生活をよくしていけるかです。

18歳から働く道には、早く収入と職歴を得て、資産形成を始められる強みがあります。

大学へ進む道には、時間をかけて専門性や思考力を育て、将来の仕事や生き方の幅を広げる可能性があります。

どちらを選ぶ場合にも、その道の利点を知り、実際に自分の力や資産へ変えていくことが大切です。

私は塾を経営する立場として、子どもたちの学力を伸ばし、志望校への合格を支えたいと思っています。

大学を目指す子には、目的と覚悟を持って進学してほしい。

勉強に自信のない子には、高校卒業後に働く道にも、安定した生活を築くための具体的な戦略があることを知ってほしい。

今回ブログでこの内容を取り上げたのは、将来の資産額を計算することだけではありません。

「どんな自分であれ、将来の暮らしをよくするためにできることがある」と、子ども自身が思えるようにすること。

私は、そこにこそ大きな価値があると思っています。

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